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環境ノートNo.7  ゼロカーボン(1)

環境ノートNo.7  ゼロカーボン(1)

まんぼう

  昨年10月、「環境ノートNo.1再生可能エネルギー」をブログにお出しして1年になろうとします。気候変動の緩和策として化石燃料の使用を控え、再生可能エネルギーに変換しようという動きは2010年頃から徐々に始まってきましたが、この1-2年で動きが急激に速くなっています。世界中が「ゼロカーボン」を唱え始めました。いったい何を背景にこの動きとなっているのでしょうか?

1.カーボンの変遷と気候変動

  ゼロカーボンとは、人間の活動によって生じる二酸化炭素(以降はできるだけCO2と表記します)などの温室効果ガスを大気中に排出しない、または排出してもその分を大気から吸収して差し引き排出量ゼロ(オフセット)とすることを言います。では大気中のCO2は、地球が生まれてからどのように変化していたのでしょう。

 

<生物生息のための絶妙な環境の誕生>

  46億年前に地球が生まれました。火の海だった地球が冷えて固まってきても地球を包む大気はなお高温で、CO2と窒素、水蒸気でできていました。やがて、海ができCO2が海に溶け込み、その一部がカルシウムイオンと結合して炭酸カルシウム(石灰岩)として海底に堆積することにより、大気中のCO2は減少し大気の主成分は窒素になってきました。図-1を見るとCO2(赤い線)の分圧が低下し始めています。分圧が低下するということはドルトンの法則*1)より濃度が低下すること同等です。そして、38億年前海の中に生命が誕生し、27億年前にはシアノバクテリア*2)が出現しました1)。彼らは大気中のCO2を吸収し、光合成により酸素を排出します。こうして大気中のCO2濃度が低下すると気温も低下し、酸素濃度も増加することにより生物が進化しやすい条件が揃ってきます。やがて生物は陸上に進出し、多様な陸上植物による光合成が活発に行われることで、酸素はさらに増え(図-1:青い線)、大気は数十億年かけて、窒素と酸素を主成分とする現在の組成になりました2)*3)。こうして、地球という惑星に多様な生物が生息できる環境が整えられてきました。一方、大気中のCO2は、植物やプランクトンを経由して数億年かけて石炭や石油などの化石燃料に姿を変え、地下に蓄えられていきました。

図-1 46億年間の大気組成の変化2)

*1)ドルトンの法則:混合気体の全圧はその成分気体の分圧の和に等しい。気体の分子量(mol)は気体の分圧に比例するので、図-1の縦軸は「各気体の濃度」に読み替えることができます。

*2)シアノバクテリア:青緑色の単細胞型のバクテリアで、藍藻類とも呼ばれ、光合成の能力があります。夏場、お堀や池でよく出会う「アオコ」は藍藻類の1種です3)

*3)現在の大気成分の濃度:理科年表などでは現在の大気成分は、窒素:78.08%、酸素:20.95%、アルゴン:0.93%、二酸化炭素:0.03%と示されていますが、2020年のCO2は410ppmを超えているので0.04%となります。この値を気圧で表現すると、ドルトンの法則より、0.0004気圧となり、図-1赤線の右下の位置の見当になります。

 

<人類と地球の関り>

  数百万年前にアフリカで人類の祖先が現れ、原生人類ホモ・サピエンスが出現するのはさらに下って今から20万年前頃4)のことです。人類は生存と発展のため、自然の恵みを享受しながら、時には自然を取り崩す活動を始めました。しかし、その活動の影響範囲や度合いは、地球の規模からすると無視できるほど小さく、人類は地球からの恵みを一方的に受けるだけでした。

  有史以来になると、四大文明発祥地など様々な場所で人口の増加・都市文明の発達に伴い、建築材料である木材や燃料を得るための伐採や農耕地を広げるための焼畑などにより、森林の喪失、土壌流出を通して、少しずつ地球に影響を与えていきました。それでも、人間が地球に及ぼす影響は地域限定的でした。まだ地球は無限に大きかったのです。

  図-2は太古から有史までの人類と地球の関わりを私の想像で示したものです。

図-2 人間と地球の関わりphase1

 

<気候変動に対する人類の気づき>

  人類の地球への関りが無視できない大きさとなってきたのは、産業革命以降といわれています。石炭や石油などの化石燃料が大量に焼却されるようになり、それまで地中に閉じ込められていた炭素がCO2となって再び大気に放出されるようになりました。大気のCO2濃度は、森林伐採による吸収源の喪失と相まって、上昇の一途をたどります。

  その結果として、地球は「気候変動」で応答します。「環境ノートNo.3」で述べたように、地球温暖化に始まって海面上昇、海洋酸性化による貝の減少、海水温上昇によるサンゴの白化現象(死滅)、凍土の融解によるメタンガスの大気放出やウイルスの拡散など様々なマイナスの影響が広がります。海面温度の上昇により異常降雨が頻繁に発生することは、近年日常生活で体験する事象です。気象現象の極端化と呼ばれ、巨大台風の発生も危惧されています。

  図-3は、人間の活動が地球に大きな影響を与えるに至った「活動」とそれによる地球の「応答」を図でまとめてみたものです。Phase-1に比べ、豊かさを求める人間の過剰な活動に対して地球は優しく応えず後戻りの効かない気候変動で応答しています。

  人々は、1970年頃からようやく地球の厳しい応答に気付き、地球が温暖化していることの検証を始めました。

図-3 人間と地球の関わりphase2

 

<温室効果ガス>

  気候変動の原因となる「温室効果ガス」は、CO2だけではありません。メタンや一酸化二窒素、フロンガスなどが知られています。

  メタンは湿地・水田などで、枯れた植物が嫌気分解する際に発生します。海外で多い生活ごみの直接埋め立て地(最終処分場)、天然ガスの採掘現場、牛のげっぷもメタンの発生源として知られています。

  一酸化二窒素(亜酸化窒素N2O)は、食料増産のため地球規模で肥料(アンモニアなどの窒素化合物)の使用量が増加し、窒素化合物が土壌中の微生物により酸化されることにより、大気中に放出されてきたと考えられています。亜酸化窒素は成層圏オゾン層の破壊物質でもあります5)

  フロンガスは自然界に存在せず、冷蔵庫やエアコンの冷媒として使われ始めたものです。フロンガスはオゾン層の破壊物質として1987年から先進国での生産禁止が始まり、代替フロンが利用されています6)が、冷蔵装置などからの冷媒(ガス)の漏出を完全に防ぐことは難しく7)、途上国を含めて生産・消費・排出の全廃にはまだ時間がかかりそうです。

  CO2以外の温室効果ガスの地球温暖化係数(GWP:Global Warming Potential)8)は、CO2を1とすると、メタン25、一酸化二窒素298、フロンガスはオゾンを破壊しないタイプのものが出てきましたが温暖化係数は高く、1430から22,800まで幅広く高い値を示します。

  CO2以外の温室効果ガスの排出量を炭素に換算するときは、

温室効果ガスの排出量 × 地球温暖化係数 = CO2換算排出量

  として計算します8)。「温室効果ガスの排出量」は、温室効果ガスのCO2換算値の合計で示します。

  2017年度のCO2換算済の温室効果ガスの排出量は表-1のようになり、CO2が全体の90%以上をしめることになります。世の中では「温室効果ガス」と「二酸化炭素/ CO2」が同義語で使用されることが多いですが、表-1の違いを前提にほぼ同じと見て必要に応じて使い分けてください。

表-1 温室効果ガスの占める割合(2017)8)

 

<気候変動抑止への世界の取り組み>

  気候変動問題は国際政治における最重要課題の一つとなりました。1988 年には、地球温暖化に関する最新の科学的な研究成果を整理・評価し、報告書を作成することを目的に、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が設立され、第1回評価報告書(AR1)が1990年に発表されました。引き続き1992年、国連総会で「気候変動枠組条約」が締結され、第1回締約国会議(COP:Conference of Parties)」が1995年に開かれました9)。IPCCが科学的な取り組みであるのに対して、COPはその報告書をもとにした政治的な取り組みです。最新の取り組みの報告は、第6回IPCC評価報告書(AR6)が2021年8月に発表され、COP26は2021年11月にイギリスのグラスゴーで開かれました。

 

  IPCCの報告書は、第1から第3までの作業部会(WG1-WG3)報告書に別れ、それぞれ「自然科学的根拠」、「適応策」、「緩和策」に関する知見が述べられています。図-4に「適応策」と「緩和策」の位置づけ10)を示します。

図-4 気候変動に対する緩和策と適応策10)

 

<パリ協定と1.5℃特別報告>

  2015年のCOP21で採択されたパリ協定では、放置すれば4.5℃も上昇する地球の気温を「1.5℃に抑える努力」*4)をすること、そのため、できるかぎり早く世界の温室効果ガス排出量を上昇から減少に転じさせ(ピークアウト)、21世紀後半には、温室効果ガス排出量と(森林などによる)吸収量のバランスをとることなどの長期目標が掲げられました11)。これが、「脱炭素」、「ゼロカーボン」、「カーボンニュートラル」の動きの始まりです。

  ちなみに、2019年度のCO2の年間排出量は世界全体で333億tでした12)。日本の総排出量は11 億 1,000万t(温室効果ガス:12.112億t)13)で、中国、アメリカ、インド、ロシアに次ぎ世界で第5位です14)

  2018年10月、IPCCは世界がいかに1.5℃達成に本気で取り組まなければならないかを訴えるため「1.5℃特別報告書」15)を出版しました。これによれば、「産業革命以降、人間活動は既に約1.0℃の地球温暖化*5)をもたらしており、 現在の進行速度では、地球温暖化は2030~2050年に1.5℃に達する」と警鐘を鳴らしております。同時に、「地球温暖化を1.5℃に抑制することは不可能ではないが、実現のためには、社会のあらゆる側面において前例のない移行が必要である」とし、具体的に「 CO2排出量は2030年までに45%削減し、2050年頃には正味ゼロに達する必要がある」と述べています。ゼロカーボンの動きはこの「1.5℃特別報告書」の警告を機に、欧州を中心として加速されたように思います。

*4)1.5℃:1.5℃とは産業革命後の平均気温からの上昇値です。

  産業革命から2015年までに、すでに約1℃上昇しているので、今後の余裕値は0.5℃しかありません。実現性は厳しいですね。

*5)IPCCのAR6では、産業革命以降2020年までの10年間平均気温として既に1.09℃の上昇15)と報告。

 

<AR6における温暖化の切迫感>

  前述したようにIPCCは2021年8月6日、第6次評価報告書(AR6)の第1作業部会(WG1: 自然科学的根拠)報告書16)を公開しました。最新の報告書内容は前回AR5と大きく異なりませんが、今回初めて「20世紀半ば以降の温暖化は人間が原因であることは議論の余地がない」と断定しました。

  図-5に産業革命以降現在までの世界の平均気温の変化を掲げます17)。図-5(a)から、人為・自然両方の要因を考慮した推定値(茶色)が観測値(黒色)とほぼ一致しており、「温暖化は人間が原因である」ことの裏付けとなっています。図-5(b) は時間軸を圧縮した表現で、温暖化は2000年以上前例がないほど急激で、地球全体が抜き差しならない状態にあることを訴えています。

 

図-5(a)  1850年からの世界平均気温の変化17) (文献17)の英語表記を翻訳)

黒線 :観測値

青緑線:自然起源の要因のみを考慮した平均気温の推定値の変化

茶線 :人為、自然起源の両方の要因を考慮した推定値。

 

図-5(b)  西暦1年からの世界の平均気温の変化17) (文献17)の英語表記を翻訳)

灰色線:元年から2000年までの諸データによる「推定復元値」

黒線 :1850~2000年は観測値。

  同報告書ではそのほか、温室効果ガス濃度が2019年度で410ppmに増加したこと、炭素排出量の地球影響への感度が高まっていること、気象の極端現象が増加していること、北極圏の温暖化は地球全体の温暖化の3倍の速度になること、2100 年までの世界平均海面水位上昇量は、対策を講じない(SSP5-8.5)場合0.63~1.01mと予測され、2014年公表されたAR5の予測値(RCP8.5)0.45~0.82 mより約0.2mも高まっていること、海洋深部の酸性化及び海洋の貧酸素化は、百年から千年の時間スケールで不可逆的であることなどが述べられています。

  第2作業部会(影響・適応・脆弱性)、第3作業部会(気候変動の緩和)の報告は2022年2月、3月に予定されています。

 

<ゼロカーボンへの動き>

  そうこうするうちに、ヨーロッパを中心とする先進国がこぞって「ゼロカーボン:温室効果ガスの排出をゼロにする」を唱え始めました。パリ協定がでてまだ3年もたたない状態で本当に1.5℃に抑えられるかといった議論が出始め、それに応じるように「1.5℃特別報告書」が出てしばらく経った2020年中ごろから、雑誌・新聞には堰を切ったように「ゼロカーボン」に関する記事が溢れ出しました。今年1月に「環境ノートNo.4北海油田の異変(2)」にもその経緯を示しましたが、その原稿を書き終わった昨年10月頃、いつもは腰の重い日本政府が洋上風力30-45GW*6)(原発45基分)、2050年ゼロカーボンを表明したのは、正直言って驚きでした。問題が山積する我が国のエネルギー・電力事情にあって、如何にしてこれを実現するかは大きな課題ですが、世界の動きに後れを取らないよう、不可能とも思われる目標を立ててしゃにむに動き出すのが政治の役目だとすると大いに評価できるでしょう。ゼロカーボンの詳しい説明は次回のNo.7(2)で行いましょう。

*6)GW=100万KW

 

 

<参考文献>

1)地球46億年の歴史と生命進化のストーリー | JAMSTEC×Splatoon 2『Jamsteeec(ジャムステ〜ック)』 https://www.jamstec.go.jp/sp2/column/04/2)地球の大気と水(地球の成り立ちと気候変動) – 探究ノート|環境展望台:国立環境研究所 環境情報メディア  https://tenbou01test.nies.go.jp/learning/note/theme1_1.html

3)シアノバクテリア門 Phylum Cyanobacteria (tonysharks.com)  https://tonysharks.com/Tree_of_life/Bacteria/Cyanobacteria.html

4)   CNN.co.jp : 二酸化炭素濃度、初の410ppm突破 ハワイ観測所 – (1/2) https://www.cnn.co.jp/fringe/35118686.html

5) 日本気象会 新用語解説 一酸化二窒素2012.6 https://www.metsoc.jp/tenki/pdf/2012/2012_06_0491.pdf

6)世界と日本のフロンガス規制-冷媒についての世界的な取り組み – NISSHA https://01.connect.nissha.com/blog-gassensor-freonregulation/

7)フロンって何? | NPO法人 ストップ・フロン全国連絡会 (JASON) (jason-web.org)

8)地球温暖化係数(GWP)とは | 電力と環境の情報 (k-server.info)

9) そうだったのか!地球温暖化とその対策(1)~地球温暖化とは?~ [2013年12月1日]http://www.dowa-ecoj.jp/naruhodo/2013/20131201.html

10)環境省ホームページ:日本の気候変動とその影響2012年度版, 2013年3月, 文部科学省 気象庁 環境省

11)パリ協定とは?脱炭素社会へ向けた世界の取り組み |WWFジャパンhttps://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/4348.html

12)国際エネルギー機関:2019年のエネルギー関連CO2排出量は333億トンで予想に反し横ばいと報告|環境展望台:国立環境研究所 環境情報メディア (nies.go.jp) https://tenbou.nies.go.jp/news/fnews/detail.php?i=28846

13)日本国温室効果ガスインベントリ報告書2021年, 国立環境研究所 https://www.nies.go.jp/gio/archive/nir/jqjm1000000x4g42-att/NIR-JPN-2021-v3.0_J_GIOweb.pdf

14)トップは中国、世界の3割近く…世界の二酸化炭素排出量の実情をさぐる(2020年公開版)(不破雷蔵) – 個人 – Yahoo!ニュースhttps://news.yahoo.co.jp/byline/fuwaraizo/20201127-00209352

15)環境省:IPCC「1.5℃特別報告書」の概要, IPCC第48回総会に際しての勉強会資料 (env.go.jp)  http://www.env.go.jp/earth/ipcc/6th/ar6_sr1.5_overview_presentation.pdf

16)気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第 6 次評価報告書第 1 作業部会報告書(自然科学的根拠)と従来の IPCC 報告書の政策決定者向け要約(SPM)における主な評価

17) Climate Change 2021, The Physical Science Basis, Summary for Policymakers, Working Group I contribution to the Sixth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Chang https://report.ipcc.ch/ar6wg1/pdf/IPCC_AR6_WGI_SPM.pdf

 

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