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環境ノートNo.5  諏訪湖の水質環境(3)

環境ノートNo.5  諏訪湖の水質環境(3)

 

まんぼう

 

  これまでアオコやワカサギの話を中心にして、諏訪湖とその湖岸周辺の環境が悪化する道筋と、修復のための取り組みについて話してきました。最後に、これからの取り組みについて紹介いたします。

4.諏訪湖の今日とこれから

 

<第7期湖沼水質保全計画>

  長野県は2017年「諏訪湖創生ビジョン」10)を明らかにしました。これは、諏訪湖の環境改善の取り組みをSDGs(持続可能な開発目標)の一環と位置付け、これまでの水質保全の取り組みを、水辺の動植物の環境づくり、さらにまちづくりまで広げ、諏訪湖全体としての20年後の将来像が見えるビジョンをまとめたものです。

  そして同年このビジョンを基に「諏訪湖にかかわる第7期湖沼水質保全計画」1)を作成しました。第7期水質保全計画(2017-2021)がこれまでの保全計画に加えて注力するポイントは、諏訪湖の透明度向上、ヒシの大量繁茂対策、貧酸素対策です。以下、特徴を簡単に述べます。

 

<水質保全計画>

  水質保全計画では、表-1に示すようにCOD、全窒素、全リンのほか透明度の目標値を示しました。透明度を上げるためには、植物プランクトンの増殖を抑えることが必要で、そのために従来から掲げる全窒素、全リンを低減する必要があります。従来の面源対策はもとより、生活排水対策の一環として、新設する家庭下水の浄化槽は窒素・リン除去型とする計画が盛り込まれています1)

 

表-1 諏訪湖の水質の現況と目標値(第7期湖沼水質保全計画1)pp.6-7より作成)

 

ヒシの大量繁茂対策

  湖沼でも栄養塩除去対策の一つとして、大量繁茂するヒシを水草刈取船(3.沿岸の修復事業 図-14参照)を使って刈取ります。刈取り量年間510t以上の目標を立てています。刈取船の入れない浅瀬や、流入河川のヒシは民間ボランティアの協力を得ながら手作業で抜き取りを行います。さらに、発芽直後のヒシ種子を除去するなど、効果的に繁茂を抑制する方法を検討する計画です。

 

<流入河川の浄化+多自然川づくり>

  2018年諏訪湖最大の流入河川である上川の河口部付近に、長さ420mにわたって背割り堤を設けて川を仕切り、その一方にヨシを植えた植生水路を作りました12.1)。川底と河川水の窒素・リンを吸収させ成長したヨシを刈り取って、土砂と一緒に除去することにより窒素・リンの系外排出が可能です。図-18に植生水路のイメージを示します。上川と並んで栄養塩の多い宮川でも治水を兼ねて、河川断面に溜まった土砂を浚渫除去して、洪水時にこの土砂が諏訪湖に流入することを防いでいます。

 

図-18 植生水路のイメージ12.1)

 

  この植生水路は、国交省が提唱する多⾃然川づくり*1) の実例ですが、他3河川(砥川、新川、武井田川)でも延べ2.6kmで多⾃然川づくりに取り組む計画です1)。河川の改修においては、地域の生態系に配慮し、多自然川づくりを進めることにより川の持つ自然浄化機能を向上させる狙いです。

 

*1)国交省は1991年から「多⾃然型川づくり」を全国通達して、自然河川の多様な河川景観(地形的多様性、生態的多様性など)を保全・創出できる河川管理を目指しています。具体的には、都市化された河川の多くは、治水のため直線化されたコンクリート製の護岸で川岸が固められています。自然の河川は本来、ゆっくり、曲がりくねりながら、ある時は淵やワンドでたゆたい、岸辺や川底の石や砂礫の間隙を通り、動植物の生態系の中を流下する過程を経て、水を浄化していきます。環境ノートNo.2 ダムはムダか?(2)でも説明しましたが、欧米では川の持つ自然本来の洪水調節機能と水質浄化機能を復元させるために、川を「再自然化」する施策がとられています。

 

<沈殿ピット:湖内湖>

  河川中の栄養塩除去の積極的な方法として人工内湖(湖内湖)があちこちの湖沼で試されています。図-19は霞ケ浦川尻川河口部の内湖を示します。内湖は流入する河川の河口付近を、ところどころに開口部をもつ離岸堤で囲い、囲まれた内部(内湖)の停滞水域にSS(懸濁物質)を沈降させ、SSに付着した栄養分が湖沼内に拡散することを防ぐ方法です。川尻川河口部では、石積みの仕切堤で幅60~100m、延長350m、容量30,000m3の内湖を設け、ヨシ,柳,浮島植生などの植生帯を設置してこの領域全体にウエットランド(湿地帯)が復活することを期待するものです。河口付近には粗粒径の土砂を沈降させるため、水深2mの沈殿ピットを設け、随時、維持浚渫します13)。中村ら(2000)14)は,この場所でセジメントトラップを用いた観測結果をもとに、窒素で19%、リンで83%の除去効率を有すると推測しています。

 

図-19 霞ヶ浦川尻川の内湖(国交省HP13より作成)

 

  内湖は栄養塩流入を防ぐ有力な方法ですが、諏訪湖の場合、内湖を形成するための離岸堤がワカサギの遡上を妨げることを危惧して設置されていません。その代わり、2016年、最大河川である上川の河口に深さ0.5m、面積1haの沈殿ピットを設け、栄養塩を含んだ土砂をトラップする方法をとりました。堆積した土砂は適宜、浚渫回収されます12.2)

図-20 上川河口部の沈殿ピットのイメージ12.2

 

<覆砂・浅場造成>

  湖底の底質を砂で置換するか、図-21に示すように覆砂することにより底質の好気環境が維持され、貧酸素水塊の発生が抑えられます。また、底生生物が生息しやすくなります。2016年には、1年半前に放流したマシジミの稚貝が増殖したことが確認されています。砂質の浅場を拡張することにより「シジミが採れる諏訪湖」が夢でなくなります。

図-21 湖岸の浅場造成と覆砂のイメージ12.3)

 

<諏訪湖の思い出3>

  2000-2001年の頃、頻繁に諏訪湖を訪れるようになりました。湖底のヘドロの下に眠る砂を湧き出させて、ヘドロを乱すことなくヘドロの上をそーっと覆う覆砂工法を開発し、その実証実験を諏訪湖で行いました。実験後、覆砂された湖底は栄養塩が減少していること、ユリミミズが生存しコカナダモが自生していることを確認しましたが、試しに散布したシジミはいなくなっていました。たかだか15m角の面積では増えることができなかったのでしょう。

  おりしも、漕艇場の静穏度を上げるため、コンクリート製の浮き防波堤設置工事が進行中で、覆砂実験の大掛かりな段取りはその現場の所長さんにお世話になりました。琵琶湖や霞ケ浦では水質浄化のために水草が浮かぶ「人工浮島」が設置されていますが、それに倣い、この浮き防波堤の上に水草をはやして、防波堤兼浮島とすることなり、水草の選定などに信州大学の先生にご指導を受けたこともあります。

諏訪湖とのあれこれの関わりが懐かしく、今回の諏訪湖勉強になりました。
 

<貧酸素水対策>

  諏訪湖の溶存酸素濃度の現地調査と数値シミュレーションを用いることにより、貧酸素水塊の生成と動態のメカニズムを理解し、効果的な貧酸素水対策を検討することができます。その一環として2020年「諏訪湖水質観測プロジェクト*2)」が立ち上がり、産学官が連携して諏訪湖の水質をリアルタイムで観測・配信する体制が整いました。これにより室内に居ながら諏訪湖の水温、溶存酸素濃度、濁度などのデータを見ることができます。

  最新の観測データとして、図-22、図-23に溶存酸素(DO)の水平分布と鉛直分布を示します。図では黄~赤の領域が貧酸素(DO<0.3mg/ℓ)の領域に当たります。貧酸素水塊が湖心の水深の深い場所、水底付近に分布していることがわかります15)

図-22 溶存酸素の水平分布(2018年7月26日観測)15)
図-23 溶存酸素の鉛直分布(2018年7月26日観測)15)

 

  さて、貧酸素水の解消方法ですが、「諏訪湖創生ビジョン」10)によれば、2010年のワーキンググループで、導水路をつくり流動改善する方法とヒシの刈り取りの2案が検討された結果、後者が採択されました。浮葉植物であるヒシの繁茂を抑制して沈水植物が優勢する環境を再生し、光合成により酸素を供給することが期待されています。しかし、沈水植物が繁茂するには時間がかかることや2016年のワカサギ大量死を契機に、機械的に水中ばっ気する工法も試みられています。また、コンクリート波返し護岸の整備の際に打ち込んだ鋼矢板が、諏訪湖への地下水の流入を妨げている可能性が指摘され、現在周辺でのDOを調査しています10.6)

 

*2)諏訪湖水質観測プロジェクト:SSS5.0の第1弾の取組みで2020年より立ち上がりました。SSS5.0とは、Suwa Smart Society5.0の略で地元企業、信州大学、諏訪湖漁業協同組合など産学官の連携プロジェクトで、IOT技術を使用し、諏訪地域の課題解決を目指した取り組みを 行っています。Society5.0とは、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立させる人間中心の社会(Society)のことです。狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く新たな社会を指すべく、2016年内閣府第5期科学技術基本計画において日本が目指すべき未来社会の姿として提唱されました16)

 

 

<終わりに>

  3回にわたり、駆け足で諏訪湖の水質保全に関する現況と取り組みについて述べてきました。

  1970-80年頃から、日本中で水域環境に関する関心が高まり、各地で水質改善に関する技術の開発、地域住民の取り組みが積極的に行われております。諏訪湖もその一例ですが、着実な対策と結果が伴ってきたように思います。

  しかし、冒頭に述べたように面積の40倍もの流域面積を持ち、全国有数の農地に囲まれる諏訪湖は必然的に、栄養塩の流入は避けられません。また長年にわたって蓄積した底泥からの栄養塩溶出とそれによる植物プランクトン・貧酸素水塊の発生も簡単に解決できる問題ではありません。

  「諏訪湖創生ビジョン」では20年後のビジョンとして「人と生き物が共存し、誰もが訪れたくなる諏訪湖」10)が掲げられています。地域と一体となった諏訪湖~諏訪地域の環境改善が進んでいきます。諏訪湖がんばれ!

 

<参考文献>

1)長野県(2018):諏訪湖に係る第7期湖沼水質保全計画, 19p., 2018.310)長野県(2018):諏訪湖創生ビジョン, 長野県諏訪地域振興局, 95p., 平成30年3月10.6) p.7

12)長野県(2020):諏訪湖創生ビジョンの取り組み, 長野県諏訪地域振興局, 28p., 2020年3月

12.1)p.7,  12.2)p.8,  12.3)p.18,

13) 国土交通省関東地方整備局霞ヶ浦工事事務所パンフレット:川尻川ウエットランド

14) 中村圭吾・森川敏成・島谷幸宏(2001):河口に設置した人工内湖による汚濁負制御,第28回環境システム研究論文発表会

15)長野県(2020):貧酸素水塊の発生及び拡大条件の分析, 長野県環境部水待機環境課, 令和2年11月

16)内閣府ホームページ : https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/index.html

お問い合わせ 0120-158-455