スタッフブログ

環境ノートNo.4  北海油田の異変(2)

環境ノートNo.4  北海油田の異変(2)

 

まんぼう

  前回まで、全石油生産の40%を占める海底石油の生産技術について語り、いかに大きな資本が投じられ世界の化石燃料生産を支えているかについて述べました。今回は、その海底石油の老舗である「北海油田」で何が起こっているかお伝えし、石油の行く先を考えてみたいと思います。

 

1.北海石油の異変 (OEの3年間の記事の変化)

  私は、海底石油掘削の専門雑誌Offshore Engineer (OE)を購読していますが、ここ3年の記事の内容が急変しています。この雑誌は北海油田を中心として、世界の海底石油の現況・将来をレポートしたもので、世界のエネルギー事情が反映されています。

 

<石油価格の低迷>

  原油価格のあらましについては既に述べたとおりです。ここ数年、イラン問題、アメリカのシェールガス生産、OPECの協調路線不調、ロシアの供給制限不調和などが重なり、2020年4月には21年ぶりの最安値$14.5/bblを付けた程です13)。新型コロナウイルス感染による世界景気の低迷も需要を押さえています。このため、新規開発契約がキャンセルされたり、掘削リグの受注にもブレーキがかかっています。また、生産量の落ちた油田の閉鎖を早めることも行われています。12月現在、$40-50/bblを中心とする横ばい圏にあります14)が、コストのかかるこの業界では厳しい状況が続いています。

 

<新型コロナウイルス COVID-19>

  COVID-19によりあちこちの石油・ガス生産現場で作業停止が頻発しています15),16)。海底石油生産現場はプラットフォームという限られたスペースに人が滞留し、感染者が出るとそのチーム全員を隔離待機させなければなりません。チームの交代要員も簡単に陸上から調達できません。この現象は原油生産のコストアップに繋がり、採算性を悪くします。

 

<ゼロカーボン>

  二酸化炭素排出ゼロを表す「ゼロカーボン」や「ゼロエミッション」は世界の合言葉です。長野県にもゼロカーボン推進室ができて太陽光、省エネなどのエネルギー戦略を立てています。ここ北海でも、石油生産に必要なエネルギーをソーラーパネルや風力発電装置から得るという計画が進行しています。二酸化炭素を排出する化石燃料を、二酸化炭素を出さないエネルギーで生産しようという、何とも皮肉な話ですね。今年になってから、OEの記事でも、「ゼロエミッション」による生産や輸送が頻繁に取り上げられていました17),18) 。さらに、最近生産現場で発生した二酸化炭素を捕捉し貯蔵した後まとめて海底下に埋め戻すというCCS(Carbon Capture and Storage)構想もこの1-2年に実現するという記事も出ています19),20)

 

 

<洋上風力発電から水素生産>

  OEの雑誌はもともと海底石油掘削を主題とした雑誌ですが、2017年頃から洋上風力発電、水素生産など“renewable”に関係する言葉が頻繁に出るようになり、2020では記事全体の半分近くが再生可能エネルギーになってきました21),22)23)24)。さらに今年になって、洋上風力から得た電気を使って、水を電気分解して水素を作り、そのままだと貯蔵と輸送が難しい水素を化学合成して、扱いやすいアンモニアを生成し燃料にするという記事も頻繁に見かけるようになりました25),26)。アンモニアの化学式はNH3ですから、燃焼しても二酸化炭素は出ないけれど窒素酸化物の処理は必要だと想像できますね。

図-12 水素からアンモニアを合成する図式26)

 

<デンマークの撤退宣言>

  そして、最後に冒頭に述べた2050年デンマークが北海から撤退するという宣言です。次章で詳しく説明します。

 

2.石油の時代の終わり?まだ早い?

  2020年12月4日のOE Today(雑誌Offshore Engineerのデジタル版)に「デンマーク政府は北海での全ての石油・ガス開発を2050年までに終了する。同時に現在の最新の開発許可を取り消す」という記事が出ました27)。これは、昨年、北欧諸国は「北海での排出を2030までに70%削減、2050までに排出ゼロとするという目標を立てた」ことに対するデンマーク政府の公式な態度表明です。2019年のデンマークの原油生産量は5,017千トン/年で、北海の主要生産国イギリス51,791千トン/年、ノルウェー78,369千トン/年の1/10以下ですが、福祉国家として知られているデンマークにとって北海油田は貴重な財源の一つです。その財源を反故にしてでも、ゼロエミッションにこだわるデンマークの本音はどこにあるのでしょうか?温暖化防止、再生可能エネルギー生産で世界をリードすることが、国家利益につながると読んだからと推察できます。私はこの姿勢はひとりデンマークだけでなく、欧米の石油生産国に波及するだろうと予測します。世界がなだれを打ってパリ協定の実現、すなわち化石燃料の廃止に向かい始める前兆のような気がします。このことが、19世紀末から一斉を風靡した石油産業の終わりとなるのでしょうか?すべてのガソリン車が電気自動車にとって代わられるのでしょうか?

  技術の発達は予測のつかない進展を見せるものです。必要は発明の父です。発生させた二酸化炭素を回収しながら走るガソリン車が開発されれば、石油の逆襲になるでしょうか。

 

<参考文献>

13) OE Today (2020) : Oil Prices Hit 1990s Low, April 22, 202014) 原油市場展望(2020):日本総合研究所, 2020年12月

15) OE Today (2020) : Offshore Drillers to Lose $3B Due To COVID-19, Low Oil Prices, April 9, 2020

16) OE Today (2020) : The Emerging U.S. Offshore Wind Industry in a Post-COVID-19 World, June 12, 2020

17) OE Today (2019) : Shell Bids to Build Dutch Offshore Wind Farms, March 13, 2019

18) OE Today (2020) : Equinor Targets Zero Emissions by 2050, January 6, 2020

19) OE Today (2020) : Australian Firm Launches Offshore CO2 Capture and Storage Project, December 7, 2020

20) OE Today (2020) : Norway Greenlights Offshore Carbon Storage Project Northern Lights, December 15, 2020

21) OE Today (2017) : 1600 MW Massachusetts wind energy , 11 May 2017

22) Oil & Gas Newsletter(2018): Norway Eyes Offshore Wind to Power Gas Plant , November 26, 2018

23) OE Today (2019) : Germany Aims 20 GW Offshore Wind Energy by 2030, January 21, 2019

24) Asian Oil & Gas(2019) : Renewables Take Over as Germany’s Main Energy Source : 03 January 2019

25) OE Today (2020) : Funding Granted for Offshore Wind-To-Hydrogen Project, February 18, 2020

26) 東洋経済(2020):水素とアンモニアに脚光, 2020.7.22

27)OE Today (2020) : Denmark to End Oil and Gas Exploration and Production by 2050. Cancels Licensing Round, December 4, 2020

 

 

お問い合わせ 0120-158-455