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環境ノートNo.4  北海油田の異変(1)

環境ノートNo.4  北海油田の異変(1)

 

まんぼう

  COVID-19と呼ばれる新型コロナウイルスによる感染症が勢いを止めません。1918年から19年に大流行したスペイン風邪では、世界人口18億人の3割に達する6億人が感染し、2000-5000万人が亡くなったと言われています。今回の新型コロナ流行で世の中のグローバル化に待ったがかかり、産業構造から仕事や生活の仕方までが変革を迫られています。そんな中、私にとってびっくりするニュースが飛び込んできました。デンマークが北海の海底石油・ガスの採掘を2050年には停止すると宣言したのです。北海と言えば海底石油・ガス掘削のメッカ。ここが、ドラマチックです。

1.北海油田とは

  北海油田は1960年頃発見され、イギリスにより掘削が始められると、それまで輸入に頼っていた石油を輸出に転じてイギリスの経済を支えました。北海の海底石油資源が豊富にあることを知ると、北海を囲む各国、ノルウェー、デンマーク、オランダ、ドイツなどが次々に開発に乗り出しました。図-1に主要な北海油田と各国の経済水域境界(点線)を示します。図-2は原油を生産するためのプラットフォーム(石油掘削装置を搭載する架台および掘削施設全体:リグともいう)の代表例です。初めのうちは、30-50mの浅海で先行するアメリカの経験・技術をそのまま利用するものでしたが、北海での競争が始まると、どの国も図-1に示すように、境界ギリギリの油田を縄張りして権益を確保しようとしました。そこで数十~数百mの深い水深でも石油生産できるようなプラットフォームの技術開発が行われました。着底式(固定式)プラットフォームは海底にその基礎を設置するタイプですが、水深が深くなると構造全体が巨大になります。そこで、浮体を係留策で固定する浮体式プラットフォームが生まれました。プラットフォームの設置水深は1970年代には最大300m程度でしたが、2005年には3000mを越えるものが現れています。

図-1 北海の主要な油田と経済水域1)

図-2 石油掘削プラットフォーム2)

 

図-3 世界の大水深海底石油・ガス田2)3)

  図-3は世界の海底油田のうち大水深のフィールドの分布を示します。北海油田は、最も早く開発され徐々に枯渇の方向に進んでいます。現在元気のよい油田はメキシコ湾(アメリカ沖)、西アフリカ沖、ブラジル沖等です。2019年の石油の生産量は、天然ガスも含めて、世界では44億8千万トン4)ですが、そのうち海底油田が占める割合は約30-40%になります5),6)

  石油の採掘コストは、中東やアメリカの陸上部では1バレル(bbl : 159リットル)当たり数ドル(以後$/bblで表します)ですが、海洋での採掘には巨大な掘削装置、貯油施設、海底送油管などのインフラコストがかかるため割高になります。北海の掘削が始まった1970-1980年頃は$20/bblが採算ラインと言われていましたが、油田が大水深化している現在では、$30-50/bblのようです7),8)。原油の価格は政治・経済の影響を受け、需給バランスに従って様々に変化します。図-4に1972~2018年の国際原油価格の推移を示します。2014年以降は、中国経済の伸び悩みとアメリカのシェールガス*)生産による供給過剰で価格は下降し、2016年には$26/bblまで下落しました。その後、現在に至るまで$40~60/bblを低迷しています。

図-4 原油価格の推移(1972~2018年)
*)シェールガス・オイルとは、1500mより深い地下にある頁岩(けつがん)層中に含まれる天然ガス・オイル成分で、2006年アメリカが開発に成功してシェール革命が起きました。それ以来、アメリカは原油輸出国に転じ、原油価格は中東の産油国連合OPECの意図に左右されにくくなりました。

2.海底石油掘削技術の発展

  ここで、少し長くなりますが、北海の「海底油田の異変」を理解してもらうために、そもそも海底石油掘削にどのような技術が集積しているか簡単に紹介します。

 1)探鉱

  図-5に示すように、船の後ろに付けたエアガンで大きなパルスを発生させ、海底からの反射の分析によりどこにどれだけの資源が眠っているか探ります。陸上で用いられてきた地震波探査技術が応用されています。

図-5 地震探査による海底の石油・ガス層の探鉱9)

2)試掘

  探鉱データを基に、掘削架台(リグともプラットフォームとも呼ばれる)を海上に固定し、試掘のボーリングをします。図-6にリグの代表例を示しますが、浅い海では固定式ジャッキアップリグを用い、水深が深くなると浮体式(セミサブ型リグ、ドリルシップ)を用います。セミサブとはsemi-submersible(セミサブマーシブル)の略で、「半潜水式(浮体)」と訳されます。セミサブ型リグは波に対して動揺しにくい*)ため、波の荒い北海での稼働率を飛躍的に高めました。図-7にセミサブ型リグの例を示します。また、浮体を安全に係留するため、様々な方式の係留装置や係留索、アンカーなどが開発されました。首尾よく石油に巡り当たると、その油の成分、油田の規模、層厚などのデータから、プロジェクトの採算性を検討します。

図-6 試掘のためのリグ、試掘船10)
図-7 セミサブ型リグ9)

*図-7に示すように、セミサブ型リグは二つの大きなフロート(浮体)の上に4本のコラム(柱)が立ち、甲板の上にある掘削装置全体を支えます。この図は曳航中のものですが、掘削現場に到達すると海底のアンカーに固定され、フロートの中に注水してコラムの長さの半分までリグを沈める(半潜水)ことにより、浮体に対する波当たりが小さくなり動揺しにくいのです。

3)生産施設

  水深や海底地質、海象(波、風、氷山)等から石油生産のためのプラットフォームを決定します。基本的には試掘のためのリグと同様の形式の施設ですが、長期間にわたって大量の原油生産に対応できるものとなっています。水深が30-100mまでなら図-2に示したような鋼製ジャケットや図-10に示すコンクリート製プラットフォームなどが選ばれますが、それ以上の水深では浮体式プラットフォームになります。

 石油掘削装置で開発された浮体式プラットフォームは、今はやりの洋上風力発電にも生かされています。

 

4)掘削・採油 

  海底下数百~数千メートルにある油層を求めて掘削します。海底油田では、1か所から様々な位置に点在する油層に向かって、図-8に示すように、自由な曲線で数km掘削できるようになっています(傾斜掘削)。このような掘削技術は、土木の地下掘削にも応用されています。最近は、「サブシー(海底)技術」といって、海底の表面には、油井から上がってきた原油を集積・配分し、海面上に送るための無人機器とパイプ・ケーブルなどのネットワークが敷設され、海面からの指令で作動するようになっています。図-9はサブシー技術の概念図です。

図-8 傾斜掘削:掘削の角度を徐々に変えて油層にたどり着く9)
図-9 サブシー技術11)

5)貯油

  掘り上げられた原油はプラットフォームの横の貯油タンクに貯められ、タンカーや海底パイプラインで陸上に輸送します。図-10にコンクリート製プラットフォームで、海底にコンクリート製貯油タンクを抱き込んだタイプのもの、図-11に巨大なタンカーの貯油機能とプラットフォームの機能が一体となったFPSO(Floating Production Storage and Offloading system)を示します。

図-10 着底式コンクリート製プラットフォーム2)
石油を採掘しながら海底のコンクリート製タンクに貯油する
図-11 FPSO12):係留された状態で海底石油を掘削し船体のタンクに貯油する

6)パイプライン

  複数のプラットフォームからの油を一か所に集め、陸上に輸送する海底送油管です。原油の粘性が高いと送油の抵抗が大きいので、パイプライン自体を電線で加熱して油の温度を高める工夫もなされます。

 紙面の関係で一部しか紹介できませんでしたが、海底石油産業は非常にすそ野の広い産業構造を持ち、石油需要の高まりを背景に、オイルメジャーの巨大な資本が投下され集積していることが理解されたでしょうか。

  次回はこの産業が危ないという本題に入ります。

<参考文献>

1) Gettyimages25years :北海油田2) Microsoft bing.com/images:石油プラットフォーム

3) 伊原賢(2014):大水深石油開発のトレンド:概説, JOGMEC, 2014.6.19

4) グローバルノートホームページ:世界の原油(石油)生産量 国別ランキング・推移

5) 石油技術協会:世界の油田・ガス田の分布-石油開発のABC

6) note.com(2019):海底油田開発の採算ラインについて, 2019.8.5

7) 大場紀章note(2020):シェールより海底油田の方が深刻か②, 2020.06.09

8) 浦野剛(2016):深海での石油井掘削方法の特徴と最近の技術動向, 国際石油開発帝石(株), 2016.2.11

9) RIO DE UT「海洋開発工学基礎講座」海洋工学編, 2019.5.21

10) 日本海洋掘削株式会社 JDCホームページ

11) Offshore Engineer(2019):Offshore Engineer, p.35, MAY/JUNE 2019

12) Gettyimages25years : 石油生産プラットフォームFPSO

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