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環境ノートNo.3  地球温暖化と海面上昇(2)

環境ノートNo.3  地球温暖化と海面上昇(2)

まんぼう

今回は地球温暖化が地球の自然、人間社会へどのような影響を与えるか、それに対する取り組みについて考えてみましょう。

 3.温暖化の影響

 <海面上昇の予測結果>

温暖化が自然や社会に与える影響はさまざまなものがありますが、最も深刻な問題として取り上げられているのは、海面上昇です。図-4に海面上昇量の予測結果4)を、表-3にその読み取り値を示します。

図ー4 世界の海面上昇量の予測結果4)

 

表-3  2100年における世界の平均海面上昇量の予測結果

どのシナリオをとっても数十cm以上の海面上昇(SLR : Sea Level Rise)は免れないようです。これまで気温上昇や海面上昇の予測値については世界の平均値について述べてきましたが、場所によって上昇の値にばらつきがあります。例えばRCP2.6の時、2100年での世界平均の気温の上昇幅は表-2に示すように1.0~3.7℃ですが、日本での上昇値は約2.1~4.0℃と予測され5)、平均値より1℃以上も上回っています。同様に、海面上昇量も世界全体で均一でなく、2100年における海面上昇量は図-5に示すように低緯度ほど高い分布を示し、場所によっては1.3mに達するところもあることが分かります6)

図-5 「4℃世界」= RCP8.5シナリオでの海面上昇量と気温6)
注意:海洋の色分布は海面上昇(m)を表し、陸上の色分布は夏季の気温が過去の経験値を上回る確率(%)を示す。

このように、海面上昇に場所的変動がある理由は、地球の持っている固有の振動(南方振動など)により海水の体積変化や海上風、海流、水温、塩分濃度などの空間パターンが影響を受けることに加え、氷河の消滅による陸上の膨張、地下水のくみ上げによる地盤沈下なども海面上昇の空間パターンの変化に寄与すると言われています7)。ちなみに、温暖化による海面上昇の原因は南極氷床、グリーンランド氷床や山岳氷河の氷の融解より、海水の熱膨張による寄与が大きいとされています8)

<海面上昇が及ぼす影響>

海面水位が上昇すると国土の面積が減少しますが、キリバス・モルディブ・ツバルといった太平洋やインド洋の島嶼国では、国そのものが存亡の危機に瀕します。例えば、キリバスでは海面が最大30センチ近く上昇すると、島の5~8割が浸水する恐れがあるため、浸水時は3,500kmも離れたフィジーがキリバスの住民を受け入れると表明しています9)。これらの国を波から守っていたサンゴ礁のリーフの水深が大きくなると波が高くなり海岸浸食が進みます。既に、住宅や道路に海水が溢れ、飲み水が塩水になってしまうなど生活に支障をきたしています。

海面上昇による影響は島嶼国だけでなくあらゆる国の国土に及びます。たかだか数十cm上がるだけでも、海岸の砂浜や干潟が減少するだけでなく、海岸堤防や護岸などに打ち込む波が大きくなり、防災施設のかさ上げや耐久性を高める工事が必要となります。日本の海岸線は約35,000kmありますが、現在浸食が起こっている海岸では、今後海面上昇による海岸線の後退は平均25mにも達すると予測されています10)。東京のゼロメートル地帯を高潮から守る排水ポンプも海面上昇分を補うため、揚程を上げる必要が出てきます。

河口部では塩水楔が遡上し、沿岸付近の農地や井戸の塩分汚染が広がります。この影響は東南アジアのデルタ地帯で最も危惧される事象です。

海面上昇が沿岸の社会基盤に与える影響は非常に広範囲で、それに対する対策費用も膨大なものになります。生態系では、マングローブ林やサンゴ礁の形成に悪影響を及ぼすともいわれます。土木学会では、地球温暖化と海面上昇が自然環境と社会基盤に与える影響をまとめ、その対応策を検討しました11)

<温暖化が及ぼす海面上昇以外の影響>

温暖化が自然や社会に与える影響は、海面上昇以外にもさまざまなものがあります。日本の場合、台風の強大化と降雨強度の増大など、既に日常生活に甚大な風被害や水害を及ぼしています。台風が巨大になると波も大きく発達し、沿岸や港湾に高波や高潮災害のリスクを高めます。

温暖化の元となる大気中の二酸化炭素を海洋が吸収して、海洋の水質が酸性化することも懸念されています。植物プランクトンの円石藻、原生動物の有孔虫、貝類、ウニなどの棘皮(きょくひ)動物、熱帯や亜熱帯に分布するサンゴなどは、炭酸カルシウム(CaCO3)の骨格や殻を持っていますが、酸性化が進んで海水中の水素イオンH+が増えると、炭酸イオン濃度CO32-が下がり、炭酸カルシウムの殻の形成が困難になると考えられています12)。環境省によるとサンゴ礁は海水温上昇による白化現象と酸性化の響受け、2020~2030年で半減、2030~2040年で消失と予測されています4)

生態系に関しては、農作物・果樹の南限が北上しこれまで地元に根差して品種改良が重ねられてきた稲やリンゴ、ブドウなどの品種が変化を強いられます。各地で森林生態系の変化、シカ、イノシシなどによる農作物被害の拡大、 サワラが増えスルメイカが減る、ミナミアオカメムシ(イネ、ムギ、ダイズの害虫)が関東まで拡大し、ヒトスジシマカ(デング熱媒介)が東北地区を北上し、 熱中症が増加するといったことも予測されています5)

シベリア、中央アジア、チベット高原における永久凍土が解けると、封じ込められていたメタンガスが大気中に出て温暖化を加速する心配もあります。眠っていたウイルスが起き出す懸念もあります。

前出したAR5の報告書4)では、温暖化、干ばつ、洪水、降水の変動及び極端現象に伴う食料不足や食料システム崩壊のリスク、熱帯と北極圏の漁業コミュニティにおいて沿岸部の人々の生計を支える生態系と生物多様性、生態系の財・機能・サービスが失われるリスクなども指摘されています。

<東南アジアへの影響>

海面上昇は場所によって変化すると述べましたが、東南アジアは世界平均より大きくなる一例です。4℃シナリオでは2040年代で海面上昇は30cmも高くなり、2100年までに110cm(85-130cm)と世界平均より50cmも高い海面上昇が予測されています(図-4と見比べてください)。4℃シナリオの2040年代で、メコンデルタ地域での米の生産量は2.6百万トン/年(2011年の11%)も減少すると見積もられています6)。その原因は、二酸化炭素の増加は米・麦の収量に対して正の方向に働くが、気温と湿度の上昇が旱魃と洪水のリスクを高め、コメの未成熟化、病害虫やネズミ増加を呼び、総合して収量減となるそうです4)

  4.地球温暖化への方策

 地球温暖化が話題になっていることを私が知ったのは1975年の頃です。ある講演会で東大理学部の永田先生が、「アメリカの学者は研究予算欲しさに地球温暖化というセンセーショナルなテーマを十分な科学的根拠もなしに掲げた。しかし、これがパンドラの箱を開けることになった。」と仰られたことが今でも耳に残っています。既に45年が過ぎた現在、温暖化を疑う人はいないと思います。さらに、世界が一致してこの温暖化と真剣に取り組んでいます。パンドラの箱と言えば、現在、世界中をかき回している新型コロナウイルスも誰かが箱を開けたのでしょうか。

<気候変動に関する政府間パネル(IPCC)について >

気候変動に関する政府間パネル(IPCC: Intergovernmental Panel on Climate Change)は、人為起源による気候変動、影響、適応及び緩和方策に関し、科学的、技術的、社会経済学的な見地から包括的な評価を行うことを目的として、1988 年に世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)により設立された組織です13)。図-6にIPCCの組織概要を掲げます。当初は政策目標を作るためでなく、世界中の温暖化に関する学術研究を「まとめる」だけの目的で出発したのですが、今では800人以上の専門家を動員して作られる「評価報告書」AR(Assessment Report)は、気候変動枠組条約の締約国会議(COP:Conference of Parties)において政策立案の最重要資料に使われるほどに広まっています。

図-6   IPCCの組織13)

<気候変動への対応>

地球温暖化に人類はどう立ち向かえばよいか、現在、世界中の機関が様々な立場から取り組んでいます。温室効果ガスの排出を限りなくゼロにするといった策は「緩和策(mitigation)」と呼びます。しかし、そもそも地球の持つ熱量、したがって温暖化の“慣性力”は莫大なものであり、簡単には止められません。温暖化は避けられないものとして、その影響を最小限にして人類が持続的に生き残っていくための方策を「適応策(adaptation)」と呼びます。図-7に気候変動に対する緩和策と適応策の位置づけを示します5)

図ー7 気候変動に対する緩和策と適応策5)

<緩和策>

図-7に示すように、緩和策は根本的な原因である温室効果ガスの削減であり、環境ノートNo.1で述べたような、省エネ、再生可能エネルギー、CCS(Carbon Capture and Storage : 二酸化炭素の吸収・貯留)などがその代表例です。最近、ドイツでは2030年までに化石燃料エンジン搭載車の販売を禁止するとか、今年の中国のEV(電気自動車)の生産台数が世界の40%を占めるといった記事が目につく様になりました。再生可能エネルギーの技術発展はこれからも加速することでしょう。

<適応策>

温暖化や海面上昇は避けられないものとして、せめてその影響を軽減する方策が適応策です。わが国では平成24年度(2014)から、政府全体で水資源、水災害・沿岸、自然生態系、食料、健康、国民生活などの分野で適応策を始動させ5)、平成30年(2018)には気候変動適応法を公布し、国と地域が連携して農業と防災に関する地域気候変動適応計画の策定を進めることになっています14)

東南~南アジアのデルタ地帯では、高潮、洪水、海岸浸食、地下水の塩分濃度上昇などの対策のため、河川・海岸堤防の強化、灌漑施設の改良、貯水池整備など多くの社会基盤整備の計画がなされています。これらの計画は、国連や世界銀行などだけでなく、欧米各国の途上国支援のもとになされていますが、同時に先進欧米諸国の外交における競争の場でもあります。我が国もJICAをはじめ大学、NGOなどが様々な形で途上国への協力を行っていますが、ドイツ、オランダ、フランス、ノルウエーなどの戦略的、組織的援助体制には及ばないというのが実感です。

<参考文献>

4)環境省ホームページ:IPCC report communicatorガイドブック, WG2基礎知識編, 環境省, 2016年2月12日 確定版

5)環境省ホームページ:日本の気候変動とその影響2012年度版, 2013年3月, 文部科学省 気象庁 環境省

6)Turn Down The Heat : Climate Extremes Regional Impacts Case for Resilience,  Print version FINAL, June 2013, The World Bank, 254p.

7)AR5 WG1 IPCC : Chapter13 Sea Level Change, 2013.7, 80p.

8)気象庁ホームページ:海洋の健康診断表 総合診断表第2版 第1章 地球温暖化に関わる海洋の長期変化 1.2 海面水位

9)imidasホームページ : オピニオン 地球温暖化で水没する国

10)須川太一他(2011):海面上昇に伴う全国砂浜侵食量の推定, 土木学会論文集B2(海岸工学),Vol. 67,No. 2,2011, pp.1196-1200.

11)土木学会海岸工学委員会(1994):地球温暖化の沿岸影響, 土木学会, 平成6年7月, 221p.

12)気象庁ホームページ:海洋酸性化の影響

13)気象庁ホームページ:IPCC(気候変動に関する政府間パネル)

14)環境省ホームページ:気候変動適応法について, 大井通博, 2019.2.19, 環境省地球環境局

 

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