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環境ノートNo.2  ダムはムダか?(2)

環境ノートNo.2  ダムはムダか?(2)

まんぼう

前回は、洪水を構造的に防ぐハード対策として、堤防とダムの役割およびその限界について述べてきました。今回は、洪水防止のソフトを含めた、総合的洪水防止対策について述べます。

2.総合治水対策(ハード+ソフト)

<非構造的アプローチ>

少し難しい言葉ですが、これからの洪水防止に対する重要な言葉です。前回の<ダムはムダか?>で、アメリカがダムを見直す過程でのソフト対策について述べました。洪水防止をピンポイントのハードな構造物のみに頼るのでなく、川の水は溢れることを前提としてその被害を如何に最小にするかを流域全体のソフトで取り組むことを非構造的アプローチ(non-structural approach)と呼びます14)

アメリカでは、1993年ミシシッピ川およびミズリー川で大洪水が起こり甚大な被害が発生しました。この洪水を契機に両河川の氾濫原内にある自治体事業所を氾濫原の外に移動し、農地や牧場などの私有地を買い上げや補助金の下で湿地に戻し、湿地生態の復活を図る施策を進めました。これにより、ミシシッピ川やミズリー川の氾濫は湿地帯に留まることになり、その後1995年に襲った大洪水での被害額は大きいものにはならず、農地買い上げや事業所移転の投資資金は十分回収されたそうです15)。また、洪水の危険性が高い地域での新規開発を止まらせる方策の一つとして、洪水保険制度がとられています15)

川の流れを自然に任せる方法はドイツでは、「再自然化」として知られ、「水管理法」に基づいた「土地利用規制」に従い、州が「浸水地域」と認定した区域には新しい建物の建設は規制され16),17)、洪水の際の氾濫原として扱われます。川は必要な時は氾濫に任せ、下流への流量を抑制して、より人口と資産の大きい下流での洪水をふせぐ政策がとられているのです。

オランダ国内では、人口密度の低い農業地域において、万が一の場合、意図的に堤防を決壊させ、定期借地契約を結んだ土地を臨時遊水池とすることが決められている地域もあるそうです18)

日本の国土交通省も、ダムや堤防だけでなく、「流域」に関わる関係者が流域全体で戦略的に治水に取り組む「流域治水プロジェクト」を進めています。「流域」とは、降った雨の全てが河川に向かって流れる地域、すなわち河川の分水界に囲まれた地域の事です。治水には川や堤防だけを見ていてはダメで、広範囲な流域という視点が必要だということです。

つい最近、オンラインセミナーで元国交省技監が、「流域治水」を進めるには民有地でも保水・遊水機能を生かした防水対策が必要であること、地球温暖化防止の目標温度2℃が間に合わず4℃になった場合でも、その時の降水量でも「手戻りのない」対策を今から打っておくべきことを強調していました。

図―3 流域治水のイメージ19)

<第二の日本列島改造論>

太古の川は地形に沿って流れにまかせ、人がいようといまいと、大雨が降れば水かさが増して自然に氾濫していました。大事なことは、この氾濫によって、下流に流れる流量が減少することです。しかし、河川の周辺に人間が住むようになり、住宅が水没することを防ぐために、堤防を作り続けても洪水は収まることはなかったことは、利根川を例にして述べたとおりです。

図-4は昨年大被害を生じた千曲川の流域を示します。実は、千曲川の流域図を見たのは、あの洪水が起きた後だったのですが、その流域の広さを初めて知り、その流域全体にほとんど同時に雨が降り続いた時の恐ろしさを実感しました。新聞21)によると2019年10月11日から13日にかけて流域全体に150-300mmの雨が降り続けました。この雨量に千曲川の流域面積7,163km2を掛けると如何に大量の水が千曲川を流れなければならなかったかを理解できます。

図―4 信濃川水系と千曲川の流域図20)

21世紀の日本の大きな課題は少子化による人口減少です。2004年に1億2800万人のピークをむかえた人口は、2050年9500万人、2100年4800万人になると予測されています22)。人口減少によりGDPの減少、国力の低下が危惧されていますが、人口減少により狭い日本でも居住地に余裕ができれば、欧米諸国に倣って人間の活動範囲はできるだけ川辺から離れ、氾濫水位より高い土地に移す。川辺にあいた土地は自然氾濫原とするか、水田などの農地に転換して、かっての古い日本の土地利用に戻していく。まさかの氾濫の時は、農地が洪水の受け皿になるのであるから、金銭で補償する政策をとる。都市部でいきなり実行することは難しいというのであれば、大河川の流域に大量の水を運ぶ支川の流域から手を付ける。このようにして、日本の河川流域を水害に対するレジリアンスの高い(resiliant)、すなわち水害が起きにくく、起きても復興能力が高い土地づくりをしてみてはと思います。

約50年前、田中角栄氏が総理になる前に発表した「日本列島改造論」は、後にマスコミから金権政治の象徴として叩かれていましたが、本来は東京の一極集中を廃し地方を活性化することをうたったものでした。

地球温暖化、洪水多発の予測の中、人口減少の今こそ第二の日本列島改造論が出ても良いのではと思います。

<参考文献>

14)公共工事チェック機構を実現する議員の会編(1996):アメリカはなぜダム開発をやめたのか, 築地書館

15)関健志:「アメリカ合衆国 環境に配慮した河川管理政策調査団」報告, リバーフロント整備センターホームページ

16) Web-newsdigest: 頻発する洪水 ドイツの取り組み

17) 重本達哉(2019):洪水制御に関わる2017年ドイツ水管理法改正の一断面, 京大防災研年報 第62号B, pp.786-794.

18) 阪井 暖子他(2015):空地等の発生消滅の要因把握と新たな利活用方策に関する調査研究, 国土交通省国土交通政策研究 第124号, 2015年3月

19)国交省ホームページ:流域治水プロジェクト

20)国交省水管理・国土保全局ホームページ:日本の川-北陸-千曲川

21)信濃毎日新聞2020.1.12

22)総務省統計局ホームページ:人口推計

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