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環境ノートNo.2  ダムはムダか?(1)

環境ノートNo.2  ダムはムダか?(1)

まんぼう

近年、雨の降り方が異常で、「これまでに経験したことがないような」降り方という言葉が繰り返されています。いわゆる「線状降水帯」が長期間居座り、これまでは時間当たり降雨量30-50mmを非常に激しい大雨と思っていたのに、100mmを越えることも珍しくありません。その結果、あちこちで、甚大な被害を伴う洪水が発生しています。ある人は水害が「狂暴化する」と表現しています。昨年は台風19号により長野県千曲川で、今年は停滞する梅雨前線により熊本県球磨川で甚大な洪水被害が生じました。

写真ー1 2019年台風19号による長野市穂保先の堤防決壊、浸水被害状況1)

地球温暖化に伴いこれから多発するかもしれない水害に、我々はただ手をこまねいて耐えていくしかないのでしょうか?

今回は、狂暴化する水害を最小限にとどめる方策がないか考えてみましょう。

1.洪水と洪水対策

<洪水>

日本の川は、世界の大河川と比べるとはるかに急流です。東南アジアのメコン川、エジプトのナイル川、ヨーロッパのライン川、アメリカのミシシッピー川などの大河川の河床勾配が1/2,000~1/15,000であるのに対して、日本の河川は信濃川で1/500、利根川で1/180、常願寺川(富山県)に至っては1/100です。明治時代に河川工事の技術指導のために来日したオランダ人技師デ・レーケは、日本の川を見て「これは川ではない、滝だ」と驚愕したと言われています。日本では降った雨は一気に川に集まって流れるので、その途中水が流れにくい湾曲部や断面の小さい箇所があると、川から水が溢れ洪水が起きやすくなります。

降雨量については、日本の年間降水量1,700mmは欧米の700mmに比べ2倍以上であり、しかも梅雨と台風期に集中します。例えば利根川の洪水時の流量は平常時の100倍になり、ドナウ川の4倍、ミシシッピー川の3倍と比較しても、日本の河川は瞬時に大洪水となって流下することが分かります2)

さて、洪水を防ぐための最もポピュラーで分かりやすい対策は、堤防とダムでしょう。堤防は川の水があふれるのを防ぎますし、ダムは降った雨を一時的にせき止め、時間を稼ぎながらゆっくりと川に流すバッファー装置です。

<堤防>

降った雨は地表や地下を通して上流の本川から中流へ、更に多くの支川の合流により流量を増やしながら下流へと向かいます。大きな流量を問題なく流すには、大きな通水断面が必要で、通常の治水は河床の掘削や堤防のかさ上げなどにより、通水面積を確保します。

日本の河川には古くから、「霞堤(かすみてい)」と呼ばれる、堤防に切れ目を入れておく治水法がありました。図-1は手取川(福井県)の霞堤の概念図で、通常時、水は右から左、海に向かって流れますが、洪水時水位が高くなると、切れ目から堤内(堤防にとって内側、すなわち人家、農地がある側)に水が溢れ、そこは一時的に氾濫原となります。しかし、そうすることによって、より緩やかで人口の多い下流部での氾濫=洪水を防ぐことができるのです。洪水が終わると川の水位が低くなり、堤内に氾濫した水は、入って来た切れ目から自然に排水されます。現在の堤防は、破堤して洪水が起こると、ポンプで排水しなければ、氾濫原は長時間水につかったままになります。

図ー1 霞堤の概念図3)

 しかし、明治以来、西洋近代技術の導入と共に土木工学の技術も「変化」し、洪水制御のために堤防を高くするようになりました。利根川の計画高水量は、明治33年3,750m3/s だったものが、堤防が高くなるにつれて、明治43年5,570 m3/s、昭和14年10,000m3/s、昭和22年14,000m3/s、昭和55年には16,000m3/s にまで達しました4)。「水を溢れさせない」ために堤防を高くすると、いざ大雨が降った時の流量が増え、堤防が決壊した場合の洪水被害が大きくなり、それを防ぐために、さらに堤防を高くしなければならないという悪循環に陥っていたと言えます。さらに、堤防の存在で洪水が起きないという安心感を住民に与え、河川の周辺に住居や施設が接近し、万一堤防が決壊した場合の被害が大きくなってきています。

堤防が決壊する原因は図-2に示すように大きく3つ挙げられます。一つは、川の水位が高まり水が堤防を越えて(越水えっすい・溢水いっすい)、堤体の裏法面(うらのりめん)、法尻(のりじり;堤防の付根のこと)を洗い流し(洗堀せんくつ)、堤体が堤内側から崩壊する現象。第二に、激しい流れが堤防の付根を洗い流し(洗堀・浸食)、堤防全体が堤外側から崩壊する現象。第三に堤防の土砂の材料が粗く緩いと川側から水が浸透しその流れによって堤体の土砂が堤内地に運搬され(パイピング)やがて堤体が崩壊する現象。

図ー2 堤防決壊のメカニズム5)

技術の発達で、堤防の安定性は高められていますが、苦しい公共事業予算の中で、すべての堤防が安全とは言い切れません。近年、予測不能な降雨で水位が想定外に高くなり、越水による堤防崩壊のケースが増えています。2015年9月茨城県で起きた鬼怒川の堤防決壊(200m)、2019年10月長野市で起きた千曲川の堤防決壊(70m)はこの例です。

<ダム>

日本にはダム(高さ15m以上)が3,000以上、世界には35,0006)もあるそうです。ダムの機能は、先にも書きましたように、振った雨を一時的にせき止めて、河川の流下能力の余裕に応じて徐々に放流するという、緩衝装置の役割(治水ダム)を持っています。ダムのその他の機能は、水道水や灌漑用水や発電のために水をためる機能(利水ダム)もあり、両方の役割を期待されるものを多目的ダムと呼びます。

ダムを設けるためには、地域の住民を立ち退かせ、先祖代々の田畑を水没させなければなりません。したがってダム建設には住民の激しい反対が生じます。1973年に完成した九州の松原・下筌(しもうけ)ダムの建設に当たっては、当時の建設省と住民との間で13年にわたる激しい闘争がありました。

ダムは人間だけでなく、動植物の生息環境を失わせるということに人々の関心が高まり、環境保全の立場からも建設反対の意見が多く出されます。川を遡るアユやサクラマスにとってもダムは大きな障害です。生態環境問題の他、上流からの土砂が堆積して当初計画の貯水量が減少する(ダムには寿命がある)、本来川に流れるべき土砂が流れなくなることで河床低下、河岸浸食、海岸浸食などが引き起こされる、ダム湖にたまるヘドロによりダム湖水が貧酸素状態になるなど様々な問題があります。図-3はダム建設が河川や沿岸
域へ及ぼす影響を図示したものです。

図ー3 ダム建設が及ぼす河川や沿岸域への影響7)

地震の誘発を唱える人もいます。インドや中国では、大きなダムの完成後、地震が誘発するようになったともいわれています。

<ダムはムダか?>

アメリカでは1980年代後半頃より、ダムは広大な環境を水没させ先住民を追いやるというデメリットに加え、建設地点が少なくなってきたこと、古くなったダムの決壊による洪水の危険性が増えてきたことなどから、ダム存在の見直しが議論されるようになりました。そういった中で、ダムや堤防というがっちりした構造物(ハード)で洪水を制御するだけでなく、河川は溢れるものであるという思想に基づき、氾濫原管理(洪水保険、環境保全、土地利用)と流域での統合的管理(ソフト)の議論が盛んになってきました。こうしたことから、1994年米国開拓局長官であるダニエル・ビアードは「ダム建設の時代は終わった」と宣言し、新しいダム建設を中止し、古い危険なダムを撤去することに着手しました8)。アメリカでは1999年から2019年までの20年間に大小合わせて1200基近くのダムが撤去されたということです9)。ただし、その後、都市部の水需要の面から、西部の州で42のダム建設が行われているようです10)。ビアードの宣言の2年前に、フレッド・ピアース がダム建設反対の立場で、“The Dmned“11)という本を著し、damとdamnをかけて、damned(呪われている)と表現しました。ちなみに、この本は平沢正夫氏の訳により1995年「ダムはムダ」12)のタイトルで出版され、当時の日本における環境保護活動家の「ダム不要論」の合言葉になりました。どちらの言語も韻を踏んでいるところが面白いですね。長野県の田中康夫県知事もその一人で、2001年知事は「脱ダム宣言」を行い、県内の11のダム事業のうち、本体工事に着工していない8カ所程度のダムの建設を原則中止する方針を表明しました。

今年、台風10号で球磨川中流の人吉市で大きな水害が発生しました。人吉市より上流の川辺川(かわべがわ)ダムが出来ていればこれほどひどい災害にならなかったろうにという、反省・恨みの声も聞こえてきます。実際、洪水後の国交省のシミュレーション結果によると、川辺川ダムが存在したと仮定した場合、洪水が起きた地点での水位は1.2~2.1m低下するものの、計画高水位を上回り氾濫する、しかし洪水の規模は実際より小さくなったとのことです。

次回は洪水防御のための統合的治水対策について述べます。

<参考文献>

1)国交省水管理・国土保全局ホームページ:流域治水プロジェクト

2)国交省水管理・国土保全局ホームページ:Ⅰ 河川の現状と課題

3)大熊孝:霞堤は誤解されている:非特定営利活動法人, 新潟水辺の会

4)国交省水管理・国土保全局ホームページ: 利根川水系:利根川・江戸川河川整備計画, 令和2年3月, 国土交通省関東地方整備局

5) 日経(1919):決壊メカニズムに違い 「100年に1度」超す雨直撃 国交省, 千曲川・阿武隈川など調査へ, 20119.10.20

6)安芸周一(1998): ダムの論争, 水文・水資源学会誌 Vol.11, No4, pp301-302.

7)勝井秀博(2013):山川海をつなぐ水環境と生態系サービスの保全・回復に関する調査研究委員会内部資料

8)公共工事チェック機構を実現する議員の会編(1996):アメリカはなぜダム開発をやめたのか, 築地書館

9)水源開発問題全国連絡会ホームページ

10)国交省水管理・国土保全局ホームページ:オピニオン/アメリカのダム事情について

11)Fred Pearce(1992): The Damned, Penguin Random House, 400p.

12)Fred Pearce (原著1995)・平沢 正夫 (訳):ダムはムダ 水と人の歴史,406p, 1995.12.1

13)国交省水管理・国土保全局ホームページ:川辺川ダムが存在した場合の効果について

 

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